研究概要 |
ヒト肝細胞をバイオリアクターとした人工肝作製のためには大量の肝細胞が必要となるが、現在、入手可能な肝組織としては手術時切除肝および屍体肝だけであり、肝細胞を新鮮な状態で必要量得ることは不可能な現状である。また培養ヒト肝細胞を増殖および保存することは、他施設の報告およびわれわれの予備実験より困難であることが判明し、現時点では臨床応用可能なヒト肝細胞を用いた人工肝の作成は極めて困難な状況である。そこで、手術時切除肝を用いて培養を行う際の問題点、また、近い将来の臨床応用に向け、異種肝細胞を使用する際の問題点および基礎的な培養条件について検討した。 1.ヒト肝細胞の分散培養に対する肝温阻血の影響 0〜300分の温阻血にさらされた切除肝から肝細胞を分散、培養した。温阻血時間が120分以上の肝組織から得られた単離肝細胞の収量は90分以内のものと比較して有意に低かったが、単離肝細胞のviabilityには肝組織の温阻血時間は影響を与えなかった。また、0〜220分の温阻血肝組織より得られた肝細胞の培養肝細胞機能は温阻血時間に拘わらず10日間維持された。 2.異種肝細胞を用いる際の免疫学的問題点の検討 ブタ肝細胞を人工肝に使用する際、免疫学的問題点の一つとして、ヒト血清中の自然抗体を考慮しなければならない。ブタ肝細胞をヒト血清で培養した場合、細胞障害を示したヒト血清は103例中7例(6.8%)存在した。また、その細胞障害機序はIgMを介した補体の活性化により生ずるものと判明した。 3.基礎的培養条件の検討 肝細胞培養における培養条件の一つとして、酸素分圧について検討した。酸素濃度を5,10,20,40,50,90%に設定してラット肝細胞を培養しその機能評価を行った。酸素濃度が5,90%のとき培養肝細胞機能は著明に低下したが、10〜50%の範囲では肝細胞機能はほぼ同等の値を示した。ハイブリッド型人工肝に対する酸素供給は、10〜50%の範囲で行う必要があることが判明した。
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