研究概要 |
平成5年3月まで60例の親子間における小児生体部分肝移植を行った。年令は4カ月から17才までで,対象疾患は胆道閉鎮症を中心に,バッドキアリ症候群,劇症肝炎,代謝性肝疾患であった。8例死亡したが生存率は待機症例で90%を得た。世界における生体肝移植の応例数では,一施設での応例数は最も多くその成績は脳死肝移植と比較して,より良好な成績を残せた。生体肝移植の倫理的問題であるドナーの安全性は,手技の工夫,ドナーの術前評価,術後管理の工夫により一例の合併症もなく確立し得た。親子間移植では遺伝学的に組織適合性が良好であることが予測でき,このことが術後の免疫反応にどのように影響するか検討した。拒絶反応の頻度は約10%であり,例え起ってもその対策は容易であることが解った。逆に強い免疫抑制剤は感染症を合併した。このため脳死肝移植の海外の報告と比較して免疫抑制剤の減量を試みた。またABO型不適合間の移植は脳死肝移植では成績が適合間移植より劣るとされていたが,種々の管理上の工夫で拒絶反応は確実に抑制できた。 移植における最も重要な点は,移植肝のバイアビリティーを良好に保持することである。この評価に肝ミトコンドリアのRedoxstateを反映する血中ケトン体比を用いた。これまでの実績から,血中ケトン体比に影響する諸因子を分析し、これら諸因子を総合的に評価して術後管理する体系(Rodox理論に基ずく術前術中術後体系)を確立した。この結果管理が安全になり合併症の治療も正確としえた。さらに,このことから手術手技が改善され,門脈再建におけるグラフトの利用や,門脈血流動態の改善,肝静脈吻合方法の改良等がなされた。今後は8例の死因を分析し,生体肝移植の適応時期,緊急症例の取扱い,免疫抑制剤の長期的問題等を検討しなければならないことが解った。
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