研究概要 |
本研究では脳リンパ腫の遺伝子変化を明らかにし、それに基づいて個々の腫瘍を識別しつつその発生母細胞の起源にアプローチすることを目的とした。このためまず免疫グロブリン遺伝子の再構成領域のクローン化と塩基配列の解析をおこなった。しかし腫瘍組織が出発材料であるため反応性リンパ球などの混在の可能性が高く、それらの遺伝子がクローン化される可能性を否定するためにまず方法論の比較検討が必要であった。その結果、制限酵素切断DNA断片の電気泳動法による分画化、再構成領域DNAのPCR増幅とクローン化、分画間のクローンの比較検討、の手順をとる方法が最も迅速かつ正確であることが判明した。実際にこの方法により多くの例でそれぞれに特異的な再構成領域の塩基配列を決定してきた(発表予定)。これらの配列をもつ細胞、即ち発生母細胞、の検索を全身リンパ装置を対象におこなうことも可能となり現在その研究を進めている。次にがん抑制遺伝子変異の解析をおこなった。この遺伝子の解析はこの腫瘍のがん化機序の理解に極めて重要であると同時に、もし変異があればそれは腫瘍ごとに異なる可能性が高く腫瘍の識別の指標となりうる。以上の考えに立ってこの腫瘍のp53,p16,p15,p21がん抑制遺伝子変異の解析をおこない、p53変異は20-40%の例に認め、p16,p15変異は更に高頻度で60-80%の例に認め、これに対しp21変異は認めない、などの知見を得た。一方、他の脳腫瘍の遺伝子変異の検索も平行しておこないリンパ腫のそれと比較検討しつつ腫瘍ごとの変異のパターンを明確にした。以上に加え、リンパ球との関連で注目される2',3'-cyclic nucleotide 3'-phosphodiesteraseのヒト遺伝子をクローン化し遺伝子構造と染色体局在を決定した。また脳リンパ腫の培養株化にも努め、現在までに2株の樹立に成功した。これらの株の遺伝子解析も上記同様の方法にておこないつつ研究を進めてきた。
|