研究概要 |
本研究では,感染歯髄の保存のために,抗菌剤とその基材について検討し、新抗菌性生体親和性材料の開発とその臨床技法の確立に成功した。得られた結果は以下のごとくである。 1.メトロニダゾール,セファクロル、シプロフロキサシンの3種混合薬剤は,感染歯髄に存在する全ての細菌を殺すことができた。 2.患部に存在する大部分の菌である偏性嫌気性菌に特に有効なメトロニダゾールの抗菌メカニズムを明らかにした。 3.α-リン酸カルシウム(α-TCP)は優れた生体親和性を有し,抗菌剤を臨床に応用するための基材として有効であった。 4.人工的に露髄させ,口腔に開放したサルの感染歯髄にα-TCPに3種混合薬剤を加えた試作直接覆髄剤を用いて病理組織学的検索を行った。その結果,患部の全ての細菌は死滅し,被蓋硬組織の形成が観察された。この事実より,本剤が感染歯髄の保存に有効であることが明らかになった。 5.ヒト口腔内のウ蝕病巣およびヒト抜去歯ウ蝕病巣より採取した細菌に対して試作直接覆髄剤を用いたところ,全ての菌が死滅した。 6.抜歯適応症のヒト歯牙を人工的に露髄させ,本剤で直接覆髄を行い病理組織学的検索を行ったところ,歯髄にはほとんど障害が認められず,経時的に被蓋硬組織の形成が観察された。 7.現在,ボランティアの実際の感染歯髄に応用を試み,経時的観察を行っているが,若年者の場合では,通常の治療では抜髄に至ると考えられる広範な露髄部を示す症例でも,慢性潰瘍性歯髄炎では、ケミカルサージェリーと本剤の応用で充分に歯髄の保存が行われている。患歯は臨床症状や電気診の結果からも正常に機能しており,その有効性が明らかとなった。ただし,高齢者の場合では,必ずしも予後の良くない症例も見られた。 なお,現在はボランティアによる臨床試験を継続中である。
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