家兎を用いて不安、恐怖などの情動行動を引き起こすとされている視床下部腹内側核を電気刺激し、情動反応による循環動態、自律神経系の変動と、笑気吸入鎮静法、ジアゼバム(Diaz)による静脈内鎮静法の影響について検討した。【方法】雄性家兎を用い、ペントバルビタ-ル麻酔下に気管切開後、バンクロニウムにて不動化し人工換気を行った。股動脈に動脈圧測定用のカテ-テルを挿入した後、脳定位固定装置に固定し、視床下部に刺激用電極を挿入した。動脈圧および心電図を患者監視装置にて持続的にモニタ-し、自律神経パッケ-ジを用いてRーR間隔の変動係数(CV_<RーR>)を求めた。さらに、末梢における自律神経系の活動を評価するため、マクロスコ-プにて上口唇部の血管を観察し、細動脈の血管径の変化を計測した。視床下部を電気刺激したときの血圧、心拍数、CV_<RーR>、細動脈径の変動を測定し、笑気(30%、50%)を吸入させた場合およびDiza(0.1mg/kg、0.2mg/kg)を静脈内投与した場合の影響について検討を行った。【結果・まとめ】収縮期血圧、拡張期血圧は視床下部刺激に伴い上昇し、刺激30秒後には低下した。心拍数は視床下部刺激により低下傾向を示した。これらの変化は、笑気吸入、Diaz投与いずれによっても抑制された。自律神経系のうち副交感神経の活動の指標とされているCV_<RーR>は、視床下部刺激直後は変化せず、刺激30秒後に上昇した。笑気吸入、Diaz投与により視床下部刺激後のCV_<RーR>は低下した。末梢の細動脈径は、視床下部刺激に伴い小さくなり視床下部刺激60秒後まで減少し続けた。この変化は、笑気吸入、Diaz投与により抑制されなかった。以上の結果から、視床下部刺激により交感神経の緊張が起こり、刺激後には逆に副交感神経系が優位になり、これらの変化は笑気吸入、Diaz投与により抑制されることがわかった。末梢における自律神経系の変化は時間的に遅れて現れ、精神鎮静法によっては影響されなかった。
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