MPFは真核細胞に共通のM期誘起蛋白質キナーゼで、その分子的実体はcdc2遺伝子産物とサイクリンBとの複合体(cdc2・cycB;cdc2キナーゼ)とされている。本研究では、MPFが分裂期を制御する機構について以下の成果を得た。 1.cdc2キナーゼ標品:分裂酵母suc1遺伝子産物をリガンドにもつアフィニティ・クロマトグラフィーで、suc1産物を含まないcdc2・cycBをワン・ステップで高度に精製する方法を開発した。これにより、MPFの機能の解析が可能になった。 2.細胞内局在:cdc2・cycBはG2/M期境界では細胞質の局在するが、M期誘起にあたって、まず細胞質中で活性化されたあと、一部は核内に移行し、他の一部は分裂装置に集積すると判明した。これらの局在の変化は、実際の細胞内においてcdc2キナーゼがM期を実現するのに決定的な意味をもつといえる。 3.染色体凝縮誘起:従来、cdc2キナーゼがヒストンH1をリン酸化することにより染色体凝縮がおこると考えられていた。しかし本研究で、ヒストンH1はなくても正常に染色体は凝縮すると判明した。このことは、染色体凝縮誘起におけるcdc2キナーゼの真の標的はヒストンH1以外に存在することを意味しており、従来の通説を覆すものである。 4.分裂装置形成:cdc2・cycBはサイクリンBとMAP4との結合を介して、微小管に集積すると判明した。しかもこのときMAP4がcdc2キナーゼでリン酸化されるとその微小管安定化能が消失し、微小管が短小化すると判明した。これらの効果は、M期における分裂装置形成に貢献していると考えられる。
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