研究概要 |
1.本年度の研究成果 (1)人工心臓駆動用リニアパルスモータ 世界で初めてリニアパルスモータ(以下,LPMという)を駆動源とした人工心臓には多くの工夫が採り入れられた。このLPMは,世界に類のない「せんべい」形とし,磁性材料には高い飽和磁束密度2.3[T]のパーメンジュール,高い最大エネルギー積270[kJ/m^3]のNd-Fe-B合金磁石,最適ピッチの設計,高い耐久性をもつリニア軸受,チタン合金によるハウジング等が採用された。 その結果,このLPMの推力/入力比は22[N/W]の世界レコードを達し,理論限界値に近づくことができた。 (2)模擬循環試験 上述のリニアパルスモータと血液ポンプとを結合させて,リニア形人工心臓を完成させた。本人工心臓の実用性を事前に評価するために,人体の血液循環を模擬した実験装置,すなわち模擬循環試験装置(モック試験装置ともよばれている)に本人工心臓を結合させて,その特性試験を行った。この試験結果によると,拍動数119[回/min]において大動脈の最大流量4.8[L/min]を得ることができた。 これらの特性値は成人が安静時の血流量を保証するものであり,実用性がより高くなったことを示した。 (3)急性動物実験 本人工心臓を羊に装着して急性動物実験を実施した。血行動態を測定した結果,体重42[kg]の羊の血流量は1.5[L/min],大動脈圧は80[mmHg]であり,本人工心臓は羊に対する2時間の循環代行に初めて成功した。 この成果は,直ちに日本経済新聞,産経新聞および国内誌30誌以上に「世界初リニアモーター使用 人工心臓」(1993.9.25)として紹介されたばかりでなく,Japan Timesにも“Revolutionary artificial heart"(1993.9.26)として掲載された。 上述したように,本研究においては世界的に見て最大の推力/入力比をもつ「せんべい形」の人工心臓用LPMを試作し,このLPMと血液ポンプとを結合させて世界初のリニア形人工心臓を作り,モック試験を経て動物実験に成功し,3年間にわたって所定の成果をあげることができた。
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