研究課題
一般研究(B)
「表現(expression,Ausdruck)」は、ミメーシスに代わる現代的藝術原理として登場した。これは、個性や独創性、要するに主観を重んじる近世・近代の傾向を鮮明にした現代の精神的態度である。然るに、主観の内実を支え、しかも克服の対象とされる間主観性(制度、歴史、伝統、共同体等)との関連に於いてこそ、「表現」の重層的な構造が十全に解明されよう。我々は、各自の専門とする文化圏、藝術領域や学問の性格を生かし、思想、言語、美術、庭園、音楽、演劇、文学等の領域で、その解明に取り組んだ。ほぼ毎月一回研究会を継続し、その成果を研究報告として纏めることができた。以下、前回の報告に際し、後に回した研究発表を概括する。古東哲明は、人間存在に於ける名(役割)を演じる側面とは区別される人間存在の基底を、無人(名)の共同体として析出し、間主観性の存在論的な側面を哲学的に照明した。安西信一は、18世紀イギリスで成立した庭園が、より広い間主観的世界へと「開かれた庭」であろうとする思想的・社会的運動であったことを、美学思想史的に検討した。永田雄次郎は、江戸期の絵画制作に見られる間主観的なもののもつ創造的契機、とりわけアカデミー的な教育方法と画家の創造性或いは絵画上の革新の関係について興味ある考察を行った。圀府寺司は、ゴッホに関する神話が、如何に形成されまた継承されたかについて、種々のメディア表現、とりわけ映像を扱い、神話の間主観的な生成のメカニスムについて検討した。斎藤稔は、絵画表現のミーメーシス性に注目し、その間主観的性格の言語的記述の学としてのイコノロジーの基礎にある論理を探究した。幣原映智は、音楽の演奏に即して、作品という主観の産物を、歴史的に形成・継承された音楽伝統の中で技巧を身につけた演奏家の内面に立ち入って、主観と間主観の交錯に成立する演奏の秘密に迫った。
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