研究概要 |
インドのパ-ラ朝時代(A.D.8〜12c)の仏教美術を中心とした図像学的研究を行ったが、諸尊像を仏・菩薩・忿怒尊・女尊の分類に従ってそのパンテオンを明らかにすることを試みた。パ-ラ朝の諸尊の作例は極めて多数にのぼるので、インドおよび欧米の博物館・美術館に所蔵されているパ-ラ朝の諸尊像の入手しうる写真資料の焼付写真を作成し、またインド美術関係の図書および雑誌論文中に掲載された写真図版をコピ-複写し、それらを整理分類して、パ-ラ朝の諸尊の図像資料の収集に努めた。こうして収集された資料をもとに、パンテオンの分類と体系化を行った。密教の栄えたパ-ラ朝においても伝統的な釈迦化は多く、とくに仏伝七相を周囲に配した成道釈迦仏や観音・弥勒を両脇侍に配する釈迦三尊像が多数を占めることが明らかとなった。宝冠仏も少なくないが、その多くも釈迦仏と推定される。密教の仏院として大日如来も少数ながら確認され、金剛界五仏のセットは建築の楯部や観音・タ-ラ-などの尊像の光背上部に表される場合が多く、それらでは大日如来は転法輪印をとる。菩薩では、作例の上で観音が圧倒的に多く、一面二臂の通有の観音のほか、不空羂索観音・カサルパナ観音・六字観音・獅子吼観音・青頚観音などが認められた。観音のほかには、弥勒と文殊の作例がかなりある。なお、作例は少ないが、八大菩薩の作例も知られる。忿怒尊では、Candamaharosana,Trailokyavijaya,Mahakala,Yamantaka,Vajrahumkara,Hayagriva,Heruka,Samvara,Hevajraが確認された。忿怒尊は作例から見るとそれ程多くない。女尊ではTaraが極めて多く、次いでCunda,Bhrkua,Vasudhara,Mariciなどが多く、その他Aparajita,Usniasvijaya,Kurukulla,Nairatma,Parnafavari,Prajnaparamita,Mahapratisara,Vajravarahi,Vajrasarada,Vagifvari,Sitatapatra,Haritiなどが認められ,パ-ラ朝における女神信仰の実態が明らかとなった。以上のように本年度はパ-ラ朝の仏教尊像の全体像の解明を行った。
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