1.平成4年度に行われた4名の先天盲開眼者の視覚的定位活動と空間内行動調整活動に関する実践研究によって得られた成果のうちの、主なもの(開眼者MOとToMに関する結果)は、次の通りである。 (1)開眼少女MO:(a)色紙と色名との対応率は、移植角膜の混渇い伴って、一旦は低下したものの、錬成試行を重ねた結果、左眼では1m以上離れても90-100%のレベルに復帰した。(b)定位活動に関しては、台紙上の特定領域内に色を塗る課題を通じて、その錬成を図ることができ、さらに複数の図領域の探索・定位も可能になった。(c)自己鏡映像については、当初の、鏡の背後を探る行動は消失して、自分の背後の対象(人物や木など)とその鏡映像との対応がつけられる段階へと移行した。次いで、自己と鏡面との間に置かれた事物に関して、実物と映像の2種を鏡によって見ることができるとの認識に到達した。最終的には、自己鏡映像の認識が成立しているが、まだ、自分の顔を認知するまでには至っていない。自己であるとの手掛りは洋服の毛などである。 (2)開眼女性ToM:(a)視空間が拡大し、2〜3m離れたところから他人の洋服の色などが分かるようになった。(b)行動図(歩行のための認知地図)により、未知の場所の空間構造が分かり始めている。(c)「下りの階段」についても、種々の手掛りにより発見することが可能になり始めた。 2.晴眼成人を被験者とする視野制限実験により、以下のことが明らかになった。(1)身体に近接した空間、とくに下方向の空間の把握が制約を受け、歩行行動などの空間内行動調整活動に大きな妨害効果が現われる。(2)身体に近い空間での距離知覚が困難になり、距離評定を行わせると、著しい過小視が生じる。(3)路上に映った樹木などの陰影を障害物と確認し、歩行行動に停止や停滞をもたらすことが少なくなかった。
|