研究概要 |
認知と情動について,その相互作用を明らかにし,情動の働きについて,その情報処理過程におよぼす生物学的機能を解明することが,この研究課題の目的である。前年度に引続き情動喚起刺激に対する脳活動電位を中心に実験を進めた。主な成果を以下に示す。 1.認知と情動の相互作用を明らかにするための方法として,脳皮質覚醒水準の低下する低圧低酸素(hypobaric hypoxia)環境の導入が極めて有効であった。 2.選択的注意を反映すると考えられる,事象関連電位N1成分は,皮質前頭野に2つの成分に分離し,80-90ミリ秒に頂点をもつ初期成分は,不快情動刺激に対して振幅の増大が生じた。 3.皮質活性水準の低下および交感神経活動の高まる低圧低酸素環境下では,情動刺激に対する主観的評価のネガティブ・シフトが起こり,N4成分(P3成分後に出現し,約400ミリ秒に頂点をもつ負電位)の振幅の増加がみられた。 4.事象関連電位P3成分は,不快情動刺激が認知課題遂行中に提示されたとき,振幅の減少を示すが,同一の刺激が情動課題遂行中に提示されると振幅の増大を示した。 これらの事実は,P3成分の基礎には少なくとも2つの異った過程が存在すること,すなわち,認知過程と情動過程は,皮質覚醒水準に存在して相互補償的に機能していることを示唆している。
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