[研究目的]本研究の中心的な目的は、従前の重点領域研究の成果を踏まえ、ビデオ記録を分析する方法を新たに開発するとともに、従前の研究で素描された発達初期のコミュニケーション・モデルを満3歳までの母子間コミュニケーションの資料を得て肉付けし、得られたデータに基づいてコミュニケーションの発達条件を分析するところにあった。 [方法の開発]成果報告書では、本研究を通して開発された方法を具体的に提示することに主眼を置き、この点についての研究成果を中心にまとめた。新たに開発した研究方法は次の通りである。すなわち、一回訪問当たり20分のビデオテープを再生し、その中から母子間コミュニケーションの発達に重要と思われるエピソードを抜粋して、それを研究の第1次資料とする。その際、そのエピソード記述は、従来の客観的行動記述とは異なり、観察者が観察対象に「成リ込む」ことによって観察対象の気持ちや情動の動きが観察者に通底してくる事実に基づき、そのようにして把握された対象の気持ちや気分を記述に交えるところに特徴がある。他方、ビデオ映像から静止画像をつくり、1エピーソードにつき数コマの静止画をその記述に交えて、エピソードの客観的な流れを分かるようにした。 [結果]得られたビデオ資料は膨大なものであり、それを上記のエピソード記述の方法に従って第1次研究資料とするのにかなりの時間と労力を要した。そのため成果報告書では1組の母子の半年間のデータしか分析できなかったが、60個のエピソードを第1次資料として提示し、コミュニケーション発達に関する若干の考察を加えることができた。特に、母親がタイミングよくかける「vocal marker」や「mirroring」が子どもとのコミュニケーションの維持に重要であり、そのためには母親が子どもに「成り込む」ことが必要であることが分かった。
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