読みの神経心理的機構を解明することを目的に純粋失読患者を対象にした実験を開始することが本年度の目標であった。先ず第一に読みに関する従来の神経心理学的知見を参照しつつ、本研究のモデル作成を行なった。 我々の読みに関する神経心理学的暫定モデルは次の経路を想定している。即ち、右視野に提示された文字刺激は左半球第一次視覚野に到達し、さらに後頭葉下面の舌状回横行線維、左側脳室後角下外側を経て左角回へ投射される。一方、左視野に提示された文字刺激の場合は右半球第一次視覚野、右視覚連合野、さらに脳梁膨大下部を経て左半球の視覚連合野に到達する。その後刺激は右視野に提示された刺激と同様の経路で左半球内の処理を受ける。 純粋失読の神経心理学的発現機序は視覚・言語離断理論で説明されてきた。即ち、右同名半盲のため左視野に提示された文字刺激のみが右半球視覚野に到達するが、その刺激は脳梁膨大部損傷のため左半球にある言語野に到達できない。 古典型純粋失読と異なり、非古典型純粋失読は右同名半盲を伴わずに失読が生じる。ここで従来より問題とされているのは半盲がないとされる右視野における視覚激の情報処理能力である。臨床的検査では(1)抽象・具象度の異なる漢字、(2)出現頻度の異なる漢字・仮名単語、(3)仮名単音節(平仮名・片仮名)(4)無意味つづり、(5)ロ-マ字、(6)様々な図形(道路標識、地図記号等)(7)構成要素を統制した図形、(8)周波数特性の異なる図形を刺激とすることにしていた。しかし本年度これらすべての刺激の性質を文字処理の暫定的モデルに従い慎重に再検討した結果、文字の視知覚的処理能力を規定することを中心に刺激を周波数特性の異なる文字刺激を使用することに決定し、刺激作成に入った。現在、この刺激の最終段階の作成およびこの刺激を使用可能な純粋失読患者の選定を行なっている。
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