気づきのセミナーが提供する主要なサービスは「気づき」の体験である。気づき(selfawareness)とは、「頭で理解する」(understand)ことではなく、行為の変容をともなうまでに「身に染みてつくづくわかる(realize)」のことである。われわれには、くり返しやってしまう行動の癖、行動のスタイルというようなものがある。じつは、こうした「わかっちゃいるけどやめらめない症候群」は、気づきのセミナーの得意分野だ。もちろん、そのために彼らが用意している方法は気づきである。気づきとは、いつも反復している自分のやり方をいったん脇に置いて、普段やらないやり方をあえてやってみることによって得られる新鮮な体験のことだ。その体験がよいものであれば、それを最初は意識的に何度もくり返すうちに、元の行動スタイルは徐々に消えていくという方法論である。 気づきのセミナーが、気づきを体験させる場であり、気づきを体験する方法をトレニーングする場だとして、それでは気づきのセミナーにはどういう人たちが参加するのか。参加者の年齢層は下は20代から上は60代までと幅広いが、中心は30代と20代の後半の人たちだ。参加者の社会層は、ビジネスマン、OL、公務員、SEなど都市のホワイトカラー層が大半だが、看護婦、保母、教師、福祉施設職員、医師など、人間とかかわる職業に従事する人たちや、カウンセラー、セラピストなど同じ分野のプロの参加も目立つ。参加費用が3〜4日間程度のセミナーで6〜12万円と、かなり高額なことが影響してか、参加者の所得や学歴が高いというのが気づきのセミナーのデモグラフィックな特徴となっている。 一方、彼らの参加動機は、だいたいにおいて漠然としたものだ。友人にしきりに誘われてどうしても断れなかったとか、職場にセミナーをやっている人がいて、楽しそうにしているからというようなことが大半だ。薬と縁を切りたいとか、アル中を直したいというような切実な人たちは気づきのセミナーにはいない。セミナーを主催する側が持っているノウハウも、個別具体的な深刻な問題には対応していない。気づきのセミナーの守備範囲は、自己表現、コミュニケーション、人間関係、存在証明、自己への気づき、ストレス・マネージメント、自分の価値の再発見など、誰もが共通に抱いている普遍的な要求である。
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