前年度に引つづいて、明清小説にかかわる通俗的日用類書およびその周辺の日常生活文化の資料ー占卜・風水・通俗暦法・飲食・遊戯・民間医療の資料の収集を行うと同時に、すでに収集ずみの資料によって、明清小説の社会史的生活文化史的な面からの解読作業を行った。その作業は大きく二種類に分けることができる。その(1)は通俗的日用類書に内包される雑多な資料の出処の解明と、その解明結果に基づく、通俗的日用類書の利用価値の考密である。その(2)は通俗的日用類書およびその周辺の資料の内包する世界と、明清小説の関係の実態の考察である。(1)については、『文林聚宝』の素材が、同時期に出版された『万錦情林』『廉明公案』『顧氏画譜』『便民図纂』などから採取されたらしいことが明らかとなった。ただ、現行本『便民図纂』には、『文林聚宝』所収のものとの間にやや相違があり、これによって明代には現行本『便民図纂』以外のテキストも行われていたことが知られ、通俗的日用類書の今日における利用価値が明らかになった。(2)については、明清小説の中に頻出する関聖帝籤や観音霊籤などのおみくじとその説明文が、現在、台湾で行われているそれと一致することが発見された。明代のおみくじの説明文はまだ明らかでないが、現在の台湾のそれと明清小説の中のそれとが一致するということは、明清小説の中のそれと明代のそれとがあまり相違がなかったことを推測せしめるものであろう。そうだとすれば、明代小説に反映されたおみくじなどの生活文化は、かなり正確に当時の実情を伝えている可能性が大きいと推測される。明清小説のもつ社会性や日常生活とのかかわりは、このように実証することができた。
|