平成3・4年度に収集した資料を中心に行なった平成3・4年度の調査結果を承けて、明清小説における日常生活の反映・影響を具体的に調査し、明清の人情小説(世情小説)の成立について考察した。平成4年度に端緒を得た『紅楼夢』における『金瓶梅』の酒令の利用についてさらに調査をすすめ、『紅楼夢』の酒令の場面には『金瓶梅』が利用されており、その利用のしかたは、小説技法から見て、より巧妙になっていることを明らかにし、中国小説史上にそびえるこの二大巨峰が、ともに日常生活の上に築かれたものであることを検証した。これを研究成果報告書『明清小説の社会史的生活文化史的研究』(冊子)所収「酒令に見る金瓶梅詞話と紅楼夢」にまとめた。また相法(人相術)が明清の小説およびその他の文化に広く深く影響を及ぼしていることについて調査し、日常生活を支配していた占卜という「文化」が、小説の世界にも深くかかわっていたことを明らかにした。研究成果報告書(冊子)所収の「唐代小説の人相観」および付論(2篇)にまとめた。上述の成果および平成3・4年度の成果によって、明清の人情小説(世情小説)が、従来、印象的に指摘されてきた日常生活の「文化」-占卜・風水・通俗暦法・遊戯・飲食・民間医療・民間信仰などとの広く深いかかわりを、小説以外の資料によって具体的に明らかにすることができた。これによって明清の人情小説(世情小説)が、当時の日常生活と深くかかわって創り上げられており、日常生活の上に構築された虚構の世界である点で、今日の小説に近い性格を有していることを知ることができた。
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