研究概要 |
この研究は規範的言語(標準ドイツ語)の成立過程の考察に寄与する実証的なデ-タを得ることを目的としている。そのためには言語資料の取扱いにおいて常に時代的背景との関連を視野に入れておかなければならない。本年度は特にデ-タ収集と平行して,語史上におけるこの時代区分に関する新しい学説を検討した(Hartweg,Mattheier,Reichmann,Wegera,Wiesinger他)。 初期新高独語期(1350ー1650)は中世後期から近代初期への社会の変化にともない文書が量と種類において飛躍的に増加した時代である。これらは伝統的な文献学の対象にはなりえなかったものである。「言語」を言語変種の総体として捉える社会言語学の観点からは全ての変種は言語資料としての価値をもっている。13.4〜15世紀半までのドイツ語圏には代表的な言語形式が存在せず,方言間の勢力も拮抗し,全ての言語変種が横並びの状態にあった(Reichmann)。1450年頃印刷術が発明され,宗機改革とともに語史上の転換点となる。この時期以降言語変種の並存の状態に序列化の動きがおこり,後の超地域的文章語に連なる規範的言語変種が成立してくる(Hartweg,Wegera,Mattheier)。Wiesingerは,この時期の言語状況をより適切に把握するために,空間的要因(地域差)の重視を強調している。広地域に波及した主要な言語変化ばかりでなく,限られた地域の変化の考察には,社会構造上の要因も重要になる。 本年度行った資料群I(Mahren地域資料)の書記法の分析結果のAltーbayern資料との比較では,子音の書法に上部ドイツ語形が明らかに現れているにも拘らず,母音のそれでは中部ドイツ語形がより強くみられた。当該の時期前半の言語状況に関する,実証的な非ドイツ語圏のデ-タとして意義をもつと考えられる。なお資料群II(Mahren15,6世紀),III(Bohmen地域資料)の適定を行い,解読とデ-タベ-ス化を行っている。
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