1.調査の概要 2年計画の初年度である今年度は、基礎デ-タの収集に専念した。すなわち、昭和63年以降に裁判官を退官した者で、現在弁護士登録を行っていて所在の把握が可能な者の面接調査である。計画では、約80名の対象者中、約50名の面接を目標としていたが、実際には、関東と近畿で約30名の面接にとどまった。しかし、面接しえた場合の内容は豊富であり、学生アルバイトによって、録音テ-プからの原稿作成を進めている。 2.面接デ-タの概要 面接デ-タの分析は来年度に行う予定であり、まだ知見を報告する段階ではない。しかし、本研究の根本にかかわる問題で、従来必ずしも強調されていなかったものとして、下記の点を指摘しておきたい。 (1)多くの回答者は、「最高裁・最高裁事総務局との比較における第一線裁判官の役割」という観点からの質問に対しては容易に回答することができたが、「立法権・行政権との比較における司法権の役割」という観点からの質問に対しては容易に回答できなかった。このこと自体に大きな問題が含まれているように思われる。 (2)最高裁事務総局による影響力の基盤として人事権の存在があげられるが、大都市勤務への希望は、最高裁の動向に批判的な回答者にも強く見られた。この希望自体に変化がないかぎり、最高裁事総務局の影響を免れることは因難であると思われる。 (3)第一線裁判官のより自由な判断に対する制約として、時間不足自体が根本的問題の一つであると思われた。第一線裁判官の積極的な法創造を期待する立場は、同時に裁判官の増員をも求めるべきものと思われる。
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