本研究は、障害者の社会復帰、特に職業的自立に必要な体力水準はどの程度のものであるかを明らかにすることを目的とする。現在、身体障害者施設、訓練所の中で体力トレーニングを行っている施設は、96施設82施設(93%)であった。就労に成功して2年以上順調に職場生活を送っている障害者を対象に、その仕事を行っているときの作業強度を推定するため、心拍数の測定を行った(心拍メモリー装置を使用)。知的障害者の場合、作業は建設・農業・クリーニング、パン工場など、身体を動かす作業が多かった。作業中の心拍数は82〜131(平均116拍/分)であった。一方、身体障害者の主な就職先は事務、ワープロ作業、手作業などで、座業が主であった。心拍水準は72-103拍/分(平均87拍/分)であった。これらの作業者の体力を測定した。測定項目は、握力、背筋力、持久力、移動能力などである。知的障害者の体力(筋力.持久力.しゅん発力.柔軟性)は健常者の値の82%の水準に位置していた。就職に成功していない知的障害者群は65%の水準であった。以上のことから、知的障害者の場合、就労に必要な体力の最低水準は健常者の80%前後のところにあるということができる。一方、身体障害者の場合は、座業が多いことから筋力系の能力は特に求められていない。座業に耐えられる体力という点で、姿勢を維持するために必要な筋力、持久力が求められている。これらの人たちの握力(健側)、背筋力は、健常者の82%の水準であった。また、一定強度の作業を行った場合、障害者は有意に高い心拍数を示し(14〜33%増)、持久力が低いことが明らかになった。就労に成功している人たちの値は、多い人の場合でも健常者の20%増以内の値であった。以上のことから、大まかには、健常者の体力水準の80%程度の体力が、就労の可能性のめやすになるということができる。
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