研究概要 |
イオントラップはそれ自体は新しい技術とは言えないが、多数の分野への応用、特に核物理への応用は近年になって発展した。我々はイオントラップの核物理への応用を念頭におき、トラップ及び測定技術の習得・開発を行なって来て、2年前に一応の水準に達したので、更にレーザー冷却を行なうことによってSr核のアイソトープシフトを測定することを思い立った。ところが、(1)高速ビーム・レザー分光法によるアイソトープシフトの測定が、ドイツを中心としたヨーロッパ・グループにより行なわれ、公表されたこと、及び、(2)かつてメーカーにより販売されていた近赤外である1.09μmを発振できる半導体レーザーが製造中止になったこと、ということがあり、研究方針を若干変更し、 ^<87>Sr^+の超徴細構造の精密測定を追求することとし、新しい強力・安定なビームロック型7Wアルゴン・ポンプレーザーを購入することによって、リング色素レーザーの発振が大幅に改善された。加うるに、トラップのレーザー光導入パイプに多重オリフィスをつけ、イオン注入用質分量離器に表面電離型イオン源を導入し効率を〜100倍とし、レーザーからトラップへの光路を改善し、また送磁場をヘルムホルツ・コイルで〜1/3に減少させた等の結果超徴細構造のスペクトルのS/N比が〜10倍向上し、FMをかけることなくシンセサイザーからのマイクロ波をスイープすることが可能となった。これらの結果超徴細構造スペクトルの線巾が1.6kHzまで小さくなり、キャリアー線とその両側に現われるサイドバンドによるピークの区別が明確になり、いわゆる0-0転移の同定が確実になった。更に、Cs標準器によりシンセサイザーの絶対較正を行ない、最終的に ^<87>Sr^+の磁気超徴細構造定数を、A=-1,000,473,673±11Hzという、相対誤差10^<-8>の精密測定に成功した。これは将来の超徴細構造異状の研究の礎石となり、また、周波数副標準にも利用できるものと思われる。
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