前年度試作されたPbF_2結晶を調べることにより、いくつか問題点が解決された。まず当初心配された加工性であるが、結晶をるつぼから取りだし大まかな裁断を行なうことには問題がなく、その後の研磨作業、それも最終工程に近いところでクラックが発生する場合が殆んどであることがわかった。この問題は、回転砥石の材質および砥液を工夫することにより一応の解決をみた。しかし大量に製作した場合の「歩留まり」は不確定要素として残っている。 光学的性質は分光分析装置で調べられ、結晶は250nmまで紫外光を透過することかわかった。これは満足すべき点である。しかしながら2つの問題点が発生した。ひとつには透過率があまり良くないことである。全体的にいって、350nmから850nmまでほぼフラットな透過率を示し、その値は良いもので70%悪いもので60%であった(20mm厚にたいして)。透過率を悪くしている原因は、結晶中に残った細かな泡と、るつぼからでてきたと思われる炭素粉であると考えられている。試作用の炉は小型で引き抜きストロークがあまりとれないため、溶解しながら軽い不純物を析出させるという純化技術がうまく働かなかったためであると考えている。 もう一つの問題点は、300nm近辺にある吸収である。この吸収は、日本結晶光学が以前に製作したものには現れず、今回試作した結晶に始めて現れたものであった。原因として考えられているのは、不純物の混入である。試作においては、るつぼは使い回しをされており、一旦焼きあげることによって不純物を飛ばしているわけであるが、その工程が十分でなかったと考えられている。折りから、PbF_2に不純物を混ぜ放射性耐性を向上させる試みがなされており、これとの関連でこの問題が生じたと考えられている。 以上のことを踏まえ、20×20×150mm^3の結晶を10本同時に試作することにした。始めるに当たって、炉を大型のものにし引き抜きストロークが長くとれるようにすること、るつぼを新調し専用に使用すること、純化工程を2倍にすることに留意した。今後、この新結晶の光学的性質を調べ、ビーム等をもちいたテストをおこなって、最終的にまとめた報告を行なう。
|