研究概要 |
本年度の研究は,C_<60>中の陽電子寿命の研究を中心に行った。陽電子やポジトロニウムは物質中の原子空孔やその他の自由空間にトラップされやすいことが知られているが,C_<60>は個々の分子の内部が中空であるばかりでなく,fccあるいはhcp構造に凝集したときに通常の原子空孔よりも大きな格子間領域ができる(分子が大きいため)。他の物質の場合,そのような大きな自由時間ランダムな格子欠陥として存在するが,C_<60>では規則的に配列されている。従って,C_<60>中の陽電子やポジトロニウムがどのような振る舞いをするかは非常に興味深い。 我々は,陽電子寿命測定装置を用いてC_<60>/C_<70>,およびC_<60>中の陽電子寿命を測定した。結果は,いずれも陽電子がほとんど単一の寿命成分で消滅していることを示した。その寿命の値から,C_<50>中ではポジトロニウムは生成せず,陽電子は格子間領域に振幅の拡大を持つような基底状態から消滅していると解釈した。この結論は,最近発表された理論計算の結果とも一致している。 C軸のよくそろったグラファイト(HOPG)中の陽電子寿命も単一成分であるが,C_<60>中の寿命よりかなり短い。一方,欠陥を含む受様な変成グラファイト中では長短2種類以上の寿命成分が観測されている。これらを統一的に解釈して,グラファイトではバルクと表面で陽電子の状態が異なり,HOPGではバルクの状態,欠陥を含むグラファイトではバルクと表面の双方の状態がプロ-ブされている,そしてC_<50>のバルクはむしろHOPGの表面に近いのではないかと予想した。これを確かめるために,電子技術総合研究所のエネルギ-可変低達陽電子ビ-ム装置を用いて,HOPGのバルクと表面での陽電子寿命を測定したところ,予想と一致する結果が得られた。
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