本研究課題は、重い電子系超伝導体CeCu_2Si_2の超伝導発現機構における磁性の役割を明らかにすることである。初年度はThをCeによって置換した系Ce_<1-x>Th_xCu_2Si_2における8%以下の低濃度域での磁気相図を決定した。Thを添加しないCeCu_2Si_2では、大きな“磁気ゆらぎ"を伴う異常は、外部磁場でT_cを抑制することにより、T_c直上で現れる。ゼロ磁場でも“磁気ゆらぎ"が存在するのか?CeCu_2Si_2の系統的な研究を行ったが、Cuのゼロ磁場でのNQR実験では超伝導の影響が大きく、上記問題は解決出来ていなかった。今回Thの添加により、T_cをわずかに下げることにより、ゼロ磁場でのCuのNQRの実験を行うことができ以下の結果を得た。 (1)トリウム(Th)が6.4%以下では、外部磁場中でのCeCu_2Si_2の場合と同様T_c直上で“磁気ゆらぎ"がゼロ磁場でも現れる。(2)“磁気ゆらぎ"が現れる温度T_MはTh濃度(xの減少)とともに減少し、ゼロ磁場のCeCu_2Si_2でも、超伝導が発現する直前で“磁気ゆらぎ"が発生している。(3)トリウム濃度が6.4%を越えて8%以上になると“磁気ゆらぎ"は静的な“磁気秩序"へと移行していく。以上の事より、CuのNMRとNQRにより初めて見い出された大きな“磁気ゆらぎ"は、ゼロ磁場でも超伝導発現の直前で起こっていることが判明した。“磁気ゆらぎ"が超伝導の原因となっている可能性が高い。最近の種々の実験より、“磁気ゆらぎ"と同時に格子の異常が見い出された。この格子の異常は、4T以上に磁場を増加させると明瞭になり、ある種の相転移の性格をもつようになる。“磁気ゆらぎ"が磁場によってどの様に変容するのか、これを明らかにすることが、来年度の課題である。その準備として、極低温(〜0.3K)と強磁場(〜11T)を組み合わせたNMRの装置を開発した。
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