本研究課題は、重い電子系超伝導体CeCu_2Si_2の超伝導発現機構における磁性の役割を明らかにすることであった。この系は、1979年にSteglichらによって超伝導が発見され、その後の活発な研究から、磁気的揺らぎを媒介にした非BCS機構で超伝導が起っていることが示唆されている。しかしながら、従来のBCS超伝導体で確立しているTcの定量的評価はなされていない。それは、磁気的性質についての研究が、十分に進展していないことに起因している。この様な状況の中で、我々は、NMRの研究から磁場印加により超伝導転移温度Tcを減少させると、Tc直上で磁気異常が現れること、さらに超伝導が磁場で壊れた後でも、磁気異常が存在することを1988年に見い出した。本研究の初年度にCe(セリウム)原子位置にTh(トリウム)原子を置換したCe_<1-x>ThxCu_<2.2>Si_2系での系統的な研究を行い、Thを添加しないCeCu_2Si_2及びTh濃度が6.4%以下でTc直上で現れる磁気異常は、Thを8%以上添加した系で現れる磁気秩序と比べて特異で、転移温度以下でも完全に静的ではなく低周波でゆらいでいる動的な特徴を持つことが分かった。 今年度は、4テスラ以上でのNMRによる研究を計画し、外部磁場に対する磁気相図を確立する事が課題であった。そのために極低温(〜0.3K)と強磁場(〜11T)を組み合わせたNMRの装置を開発し、実験を試みたが、測定周波数(〜60MHz)を増加させると、1K以下での温度上昇が予想外に大きく、精度の良い実験ができなかった。低温での渦電流損失による温度上昇が測定を困難にしているので、この点を改良しなければならない。従来の磁場掃引NMR法ではなく、単発パルスフーリエNMR法を応用することを現在試みている。
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