有機金属は、いわゆる、「強く結合された電子」の近似が成り立つ物質群であり、「自由電子」近似が良いとされる通常の金属とは振る舞いが異なる。本研究では、有機伝導体αー(BEDTーTTF) _2I_3の金属ー非金属転移の近傍温度に的を絞って、24GH_Z帯のマイクロ波を用いた伝導度測定を行った。さらに、それと比較する目的で直流伝導度の測定を行った。 マイクロ波伝導度測定は非接触(電極をつけない)で行うので、伝導度の異方性の測定が容易にできる。この特徴を使って、αー(BEDTーTTF) _2I_3の金属ー非金属転移にともなう伝導度異方性の変化を詳しく調べた。高周波電場の方向を試料の結晶軸に対して変えながら伝導度の温度依存性を測定する。 その結果、伝導度の急激な低下が始まる温度より1ー2度高い温度から、転移の前駆現象がはじまることが明らかになった。この温度域の伝導度異方性は興味深い。ある軸にそった電気伝導度は温度低下と共に徐々に減少するのに反して、もう一つの軸方向の伝導度はむしろ上昇するのである。従って、この物質の転移をある軸方向の伝導度で見ていると転移は緩やかに起こっているように見えるが、別の軸向方では転移は急激であるように見える。 なお、転移の近傍では、伝導度が不連続に変化する現象が頻繁に観測される。このことは、金属ー非金属転移が単一の温度で起こっているのではなく、小さな転移の集合である可能性を示唆する。 同じ現象を直流伝導度でも調べた。電気伝導度が最も低い結晶軸方向に電流を流した場合、転移近傍のかなり広い温度範囲で伝導度が一旦上昇する現象を確認した。これは高周波で観測した現象と一致している。
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