研究概要 |
準安定状態から安定状態への転移は,一様な準安定相の中に,安定相の臨界核が揺動的に発生することによって起こる1次相転移である。この揺動は,通常の条件下では「熱的揺らぎ」と考えられている。しかし,ポテンシャル障壁に較べて充分低い温度域においては,「熱揺らぎ」の効果は有効性を失い,替わって,量子力学が示す原理的「量子揺らぎ」による臨界核形成に伴う1次相転移が期待される。この可能性を、^3Heー^4He混合液系を用いて実証することを本研究の目的として掲げた。 超低温温度域において,^3Heー^4He混合液の過飽和状態を作り出す手段として,ス-パ-リ-クを用いた「超流体移送法」と名づけた実験手段を開発し確立した。この実験手段を用いて,130mKから400μKに至る広い超低温温度域において,^3Heー^4He混合液の過飽和状態からの相分離を定量的に観測することに成功した。 約10mK以下の温度域において,臨界過飽和度は温度に依存しなくなることを見出した。このことは、この温度域で「量子揺らぎ」の領域に入っていることを示すものである。すなわち,我々は「量子トンネル効果」による1次相転移を世界で初めて実証した。 一方約10mK以上の温度域では,臨界過飽和度は温度と共に増大することを見出した。このことは,「量子揺らぎ」領域から「熱揺らぎ」領域への移行という単純な考え方から期待されるものとは,全く逆の温度依存性である。我々は,エネルギ-散逸の効果の可能性,臨界核形成に際して高温域では^4Heがその状態を大きく変化させねばならないことによる効果の可能性,を考えている。
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