本研究は、イオン注入により、基板の結晶シリコンが非晶質化する過程、及び非晶質化した層の熱処理による構造緩和現象について、ラマン散乱法、ラザフォード後方散乱法、陽電子消滅法、電子スピン共鳴法などを用いて調べたもので、次の結論を得た。 1.結晶シリコン基板の表面が、イオン注入により非晶質化することは、表面層の照射損傷蓄積による膨張が原子間結合力を弱めることに基づく。 2.注入イオン種や注入条件を選ぶことにより、損傷の蓄積を容易にすれば、非晶質化は低ドーズ量の注入で起こる。低温での注入、燐イオン注入における燐と空位の複合化などがこの例であり、実験的に立証した。 3.注入イオン種の質量により、基板表面が非晶質化するドーズ量には差があるが損傷と注入イオンとの結合がなければ、これは基板内損傷発生密度でドーズ量を正規化することにより、統一的に説明できる。 4.非晶質化した表面層は、熱処理により歪を緩和して安定状態に落ち着く。この過程は、注入イオン種により非晶質層中の損傷の形態が異なるために、大きな差がある。 5.熱処理による構造緩和の過程では、原子間結合角の結晶構造での値からの偏差は、単調に減少せず途中逆過程(偏差の増大)を示す。これは、複合化した損傷欠陥が分裂して小規模な欠陥に変化する過程に基づくもので、この過程ではダングリングボンド密度も熱処理で増加する。
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