走査トンネル顕微鏡(STM)のトンネル抵抗部分(走査用探針ー試料用)は、一般に1/f雑音が大きい微小抵抗体の極限にあること、探針走査により任意の場所に接合を形成できること、STMによって得られる顕微情報(表面の形状、吸着分子の存在、それらに付随する局所的電子状態など)を把握しながらーいわば雑音源の状態を微視的レベルで評価しながらーその場で雑音測定ができる、という種々のユニ-クな特徴を持つ。今年度は自作した現有のSTMユニットを使い、以下の実験を行った。 1.トンネル電流Iの雑音パワ-スペクトルS_Iを、PtーIr合金探針とAu薄膜試料の組み合わせについて、周波数f(1〜5kHz)に対して空気中で測定し、試料位置に依存するものの、強度にしてfS_I/I^2〜10^<-5〜-4>オ-ダ-の、通常の電気抵抗体に比べ8桁以上も大きな1/f雑音が観察されること、 2.適当な周波数帯域内にあるトンネル電流雑音強度の試料面内分布を、表面トポグラフと同時測定し、両者の2次元像の空間的対応を調べたところ、表面凹凸には特に対応しない雑音発生点が例外的にある他は、明白に試料表面段差部が高い1/f雑音発生箇所と対応している場合が多いこと、 3.雑音強度が、あるバイアス電圧で最大になること、を見い出した。 4.以上の結果いずれもは、試料表面で気体分子の熱活性化型脱離吸着が起こり易い特異点が存在すること、これにより局所的に仕事関数が変動するためトンネル確率が変わること、探針が比較的太いため複数のトンネル経路があり脱離吸着の時定数に分布が生じる、というモデルで良く説明できることが分かった。 現在、上記実験を更に理想的条件下で行うため、超高真空(UHVー)STM装置を組み立て中である。
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