超高真空中においたグラファイトと金の試料について、白金-イリジウム探針を用いて走査トンネル顕微鏡(STM)のトンネル電流の雑音を種々の条件で測定した。トンネル電流を固定してバイアス電圧を増やしていく(探針-試料間距離_zを増やしていく)と、雑音強度は増加した。金試料では、雑音強度は探針の試料上の位置こ依存し、その空間分布はトンネル障壁高φと正の相関を示した。また、_zを変調する方法でトンネル障壁高φを測定する際、φに比例する信号もトンネル電流とほぼ等しい強度の1/f雑音を示すことを見いだした。原子分解能を有する探針でグラファイト試料を観察した場合、しばしばランダムテレグラフィック雑音が観測された。ランダムテレグラフィック雑音の周波数特性はローレンツ型で、探針直下で起きる単一の原子の運動を探針がプローブしているためと考えられる。1/fゆらぎもローレンツ型ゆらぎも、トンネル電流のゆらぎの原因はトンネル障壁高φのゆらぎによると解釈することができた。 トンネル電流雑音の温度依存性を、超高真空中のグラファイト試料とタングステン探針の組み合わせで測定した。測定温度範囲(65K〜室温)では、雑音スペクトルは周波数fに対し1/f^α(α=1±0.5)依存性を、100Hzにおける雑音強度は、温度に対し2つのピークを示した。後者の事実は、表面フォノンの数ゆらぎにもとづくモデルとは、定性的にも定量的にも矛盾する。実験結果は、多重緩和過程を考慮した熱活性化型ゆらぎモデルで最もよく説明できることが分かった。周波数因子が原子振動数程度であることから、STMトンネル電流の1/f雑音の原因は、探針から比較的遠方に分散する"欠陥"が種々の時定数で移動する結果、クーロン場のような長距離相互作用を介して、探針位置のトンネル障壁高が変動するためであると結論するに至った。
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