研究概要 |
本研究は,原子サイズの空間での電子のトンネル効果を制御して,原子1個を1単位とする情報記録方式の開発を目的とした基礎研究である。本年度は,この種のトンネル効果を利用するのに必要な探針の形状と特性に関するシミュレ-ションおよび探針の加工法に関する実験研究を行った。 探針の形状と特性に関しては,探針の開き角が小さい程電界集中係数を大きくでき有利であること,加工形状のずれがトンネル電流の大きさに指数関数的に影響するが,仕事関数の小さい材料を用いればそれを抑制することができること等を明らかにした。 探針の加工法に関しては,材料としてシリコン(Si)を選び,(1)水酸化カリウム水溶液を用いた異方性エッチング,(2)四弗化炭素ガスを用いた等方性プラズマエッチング,(3)Arイオンミリングによるスパッタエッチングを検討した結果,以下の点を明らかにした。(1)の方法は制御性には優れるが,探針先端の曲率半径が100nm程度に制限されてしまう,探針の開き角が約70度に固定されてしまうという問題がある。これに対し(2)の方法は制御性に関しては(1)の方法よりも劣るが,(111)方位のSi単結晶を用いれば探針の開き角を30度以下にでき,かつ先端の曲率半径も10nm以下に鋭く加工できる。(3)の方法は,イオンビ-ムの入射角を適当に設定することにより探針先端の曲率半径を10nm以下に尖鋭化できる。尖鋭化される理由は,従来考慮されていなかった結晶面方位の違いによるスパッタ率の差が関与しているものと考えられる。以上より探針の加工法としては,等方性プラズマエッチングで加工し,さらにイオンミリングで尖鋭化する方法が最も適していることを明らかにした。超高真空中でのトンネル電流放射特性の測定からもこの方法が優れていることを明らかにした。
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