光走査トンネル顕微鏡(PSTM)の理論を、仮想光子の概念を用いて開発し、実験結果とよい一致を得た。従来の理論は直感的な理解の困難な電磁界解析に頼っていたが、本理論はこれらの問題点を解決するものであることが確認された。この理論をもとにPSTM用光ファイバ・プローブ先端からしみだすエバネッセント光により真空中に浮遊する原子を一つづつ捕獲する際の捕獲ポテンシャルの深さ、必要な光源の波長、などを推定し、マニピュレータの設計を行った。対象とする原子として、シリコンなど、約20種類のものについて行った。 光ファイバ・プローブ先端の先鋭化の技術を開発し、選択エッチングにより先端先鋭角15度、先端曲率半径2nm以内、のものを実現した。先鋭角のばらつきは0.5度以内であり、きわめて再現性の高い方法であることを確認した。また、ファイバに金属膜を蒸着し、その後衝突法、放電法などにより先端部に微小開口を作成する技術を開発した。 超解像光学顕微鏡としてのPSTMの測定速度と分解能を向上させるシステムを開発し、測定速度は従来の約10倍向上した。また、生体極微試料の一っであるバクテリオファージT4の像を世界に先駆けて観測することに成功し、この結果より分解能は従来の10倍以上優れた値、すなわち2nmであることが確認された。 真空中に浮遊するルピジウム原子にエバネッセント光を照射し、その吸収スペクトル幅の広がりの値から、エバネッセント光は原子捕獲のための運動量を原子に及ぼしていることを確認した。 シリコン原子などの捕獲のために必要な波長200〜300nmのコヒーレント光源を実現するために、半導体レーザと固体レーザを組み合わせた非線形波長変換システムの設計、および予備実験を行った。 以上により本PSTMシステムは単一原子の捕獲のためのマニピュレータとして十分な性能を有することが確認された。
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