研究概要 |
生体関節と人工関節における多モ-ド適応潤滑機構を解明するために,生体関節モデルの摩擦試験や人工関節の歩行シミュレ-タ試験,人工軟骨材料PVA(ポリビニルアルコ-ル)ゲルの潤滑機能の評価試験を行うとともに,歩行時の膝関節部の動的挙動との関連を検討した. まず,軟質材摩擦面を有する人工関節モデルによるシミュレ-タ試験により,生体関節の潤滑状態の評価を試みた.解剖学的デザインの大腿部と,生体軟骨に近い弾性率を有するシリコ-ンゴム製の脛骨部から構成される人工膝関節に対する歩行模擬実験を行った.その結果,0.1Pa・s程度の中粘度の潤滑液が供給されるならば,弾性流体潤滑効果により摩擦面間の直接接触が防止されることを実証した.しかるに,潤滑液の粘度が低下した場合には,かなりの直接接触が発生することもわかった.そのような過酷な条件下では,多モ-ド適応潤滑機能が必要となる. 本年度は,ゲル膜潤滑と滲出潤滑に着目し,関節軟骨モデルを用いた研究を進めた.ゲル膜潤滑における関節液の固体的挙動・ゲル膜形成を調べるために,生体材料であるゼラチンゲルで摩擦面モデルを作成し,ゼラチンの低濃度溶液を潤滑剤として使用し,往復動摩擦試験を行った.その結果,ゲル膜が沈着しやすい条件下で最小摩擦状態を実現できることが判明した.滲出潤滑作用に対しては,PVAゲルにおける滲出挙動をレ-ザ顕微鏡で観察するとともに,各種摩擦材の組合せに対して滑り試験を行い,低粘度条件下でも低摩擦を実現できることがわかった.ステンレス鋼製大腿部とPVA製脛骨部から構成される円筒型人工膝関節では,歩行条件下でも極めて低い摩擦状態を実現できた. また,表面損傷をきたし潤滑機能も低下した変形性膝関節症患者では,歩行時には接地直後に過大な側方加速度が発生することが実測で判明し,関節機能の臨床的評価の手段としても有用であることがわかった.
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