本研究では、文法理論に内在する機構、特に、その制約の記述法に重点をおいて、計算機処理に適した文法記述体系の開発を試みた。そのために、文法理論を計算機上に実装していくための、効率的な文法記述法を開発し、それに基づいて、中規模のワークステーション上に論理型プログラミング言語による構文解析システムを試作し、それに、日本語句構造文法の中核的な部分を実装した。 平成3、4年度には、文法的事項に付随する制約の一般的な記述法を重点的な研究対象とし、言語学的に要請される文法的制約を、自然な形で計算機処理機構に効率よく実現する方法について研究を進めた。以上を受けて、4年度には、構文解析機構そのものと、構文解析器が用いる文法記述とを分離して開発・記述し、その参照の手続きを明確化することに努めた。 さらに、4、5年度には、トップダウンアルゴリズムによる構文解析プログラムを、ボトムアップアルゴリズムを用いたプログラムに書き直す作業を行い、文法記述と、その計算機上での実現との間の乖離を最小限にするためのツールをいくつか開発した。 以上の結果、文の構造を表現する方法を本研究で提案するような多重的な素性表示にすることにより、形態的な表示と意味的な表示を統一的に扱うことができるのみならず、そのような表示に基づく構文解析も容易に実現可能であるということが明らかになった。 文法的制約の記述に関しては、当初、連続的なコストという考え方をとり入れた制約というものに立脚する方針を採用することも検討したが、論理型プログラミング言語という、離散的な概念を中心として設計されている言語の中でどのように表現するべきかという問題については満足のいく解決法が得られなかった。この問題については、別の研究テーマとして新たに取り組みたい。
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