本研究ではX線を制御する為のX線導波路や、X線レンズ等のX線機能素子の研究開発の基礎を築くことを目的とし、「電磁界理論的な散乱解析」ならびに、「多層薄膜における軟X線反射解析」の双方の観点から理論的解析を行った。更にX線の反射特性の実験的基礎検討を行った。 1)円筒導体モデルによるX線ビーム波の反射、散乱、回折特性の検討 原子レベルでの媒質境界面を疑似的に導体円柱格子とみなし、媒質境界面付近のX線電磁波の反射、散乱、回折の散乱モデル数の依存性、入射波長依存性ならびに角度依存性の解析を、境界要素法を用いて行った。 2)原子内部の屈折率分布を考慮した散乱解析 厳密に物質境界面での散乱解析を行う為に、原子内での屈折率分布を考慮し量子論的概念と電磁気学的概念を用いて、解析モデル中の円柱内に屈折率分布を与え、原子の外部では境界要素法、原子の内部では有限要素法を用いた解析を行う具体的な方法について検討した。 3)多層薄膜における軟X線に反射解析 Au/C、Pt/Si、Rh/Siなどの多層薄膜に対するX線波長領域における反射・透過特性解析を行った。解析において、膜厚依存性、入射角依存性、波長依存性、ならびに層数依存性を示し、比較的高い反射率を得ることが出来た。特にRh/Si多層薄膜においては80%以上の反射率を得ている。また、多層膜製作に対して各膜厚を高精度に制御できる蒸着法として分子線エピタキシャル成長法、RFスパッタ法等の検討を行い、更に高反射を得る多層薄膜の材料選定や、斜入射の場合における膜厚の最適化を各媒質における複素屈折率を考慮する事によって行った。現段階では、実際のX線導波路実現に対し必要とされる反射率に比べて不十分なものしか得られていない。今後、より理想的な高反射多層薄膜の設計をしていく必要がある。 4)X線機能素子の理論的検討 X線機能素子の一つとして考えられるX線レンズについて、屈折率の異なる物質を同心円状に広がる層状に配置する構造を用いる事によって、実現可能である事を光線追跡法によって示唆し、より理想的な構造について検討した。
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