本研究の目的は、現在、コンクリート構造物のタイル剥離診断等に使用されている赤外線映像装置を用いて、10m程度の遠距離から、遠隔操作でひびわれを調査できるか否か、検討することである。これまでの本研究の成果から、遠赤外線を照射してその反射光を同装置で撮影する方法で、微少なひびわれをパソコンディスプレイ上の温度分布変化として表示できることが確かめられている。特に、気温とコンクリート表面温度との関係が映像に微妙に影響することが明かとなったので、本年度は0.02mmから2mmのひびわれ幅を有する鉄筋コンクリート版供試体を作製して、温度条件を変えて、10m離れた位置からの計測を試みた。赤外線映像装置にはアゲマ社製TVS-2000(10mの観測距離で1画素の観測視野25mm×25mm)、アビオ社製880LWD(10mの観測距離で1画素の視野6.28mm×3.92mm)の両方を用いた。その結果、880LWDの場合、供試体温度と外気温との温度差の絶対値が5℃以上あれば、約10m離れた位置からでもひびわれを観測することが可能であった。一方、TVS-2000の場合は温度差に関係なく、10mの位置から観測できるひびわれ幅は0.8mm程度であった。それらの結果から、880-LWDが比較的劣化度の低い初期ひびわれを観測できるのに対し、TVS-2000ではかなり劣化度の進んだひびわれしか観測できないことが明らかとなった。しかしながら、そのことはひびわれ診断にとっては好都合であり、両装置を同時に用いてひびわれを観測することにより、コンクリート構造物の劣化度の程度をある程度把握できるものと考えられる。
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