災害時に認識しやすい視覚情報の基礎的研究の第2ステップとして本年は2つのことを研究した。第1は、色の見えのモードに関する研究である。非常口、誘導灯等の標識は光源を内蔵しその表面輝度を大きくするように工夫されている。普通の反射物体の色の見えは物体色であり、視覚情報のほとんど全てはこれである。したがって人々はこの色の見えにはよく慣れていて、前年度に明らかにしたように赤など特殊の色相、彩度の色は別として、格別の注意を払うということはない。ところが光源を内蔵した標識の場合は反射物体では予測できない高い輝度を発するので人間はこれを光源色として認識する。このような光源色は世の中には少ないので注意を喚起する度合いも高くなり、非常口などの標識に採用することはきわめて有効であると考えられる。ではどのくらいの輝度あるいは表面照度で光源色を認識するかが標識の設計に際しては重要なデータになるが、それを求める実験を行った。種々の色相、彩度、明度の色について実験した結果、色相は赤系、比較的高彩度、低い明度の色が最も少ない表面照度で光源色に変化することが分かった。非常口等の色の選択については現在採用している緑を再考する必要があると考える。 第2の実験は、災害時の安全避難で問題があると考えられる地下街の非常口、誘導灯標識の検出の難易について検討した。視覚的に見ていろいろな条件の地下街の写真を撮り、それらをスライドプロジェクターで、トークアイ眼球運動検出装置を装着した被験者に短時間見せ、標識検出にいたる注視点の移動を調べた。その結果、背景に類似色の多い場合の眼球軌跡は種々の類似物体に跳びなかなかターゲットに到達しないこと、類似色の少ない場合はほとんど一瞬の内に非常口等のターゲットに到達することなどが明らかになった。
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