本研究は、利用者の頭の中、つまり意識上あるいは心理上に構成されている手続きや空間(認知イメージ)と、機能等様々な要素を基に計画された実際の空間やそこでの手続きとの『ズレ』が、迷いや疎外感の基礎になっているとの仮説に立脚し、その『ズレ』が、実際、どのように解決され、また使いこなされてゆくのかを明らかにする目的を持つ。 本年度は、病棟部においては、職員と患者との空間の意味付けの違いを明らかにすることを目的とし、また外来部などでは、昨年度の研究成果に基づき、より具体的に建築空間のあり方を考察するために、諸空間とそれらをつなぐ領域の構成について、それぞれの位置付けと構成原理の実態を明らかにすることを目的とし、調査をそれぞれに企画した。 前者については、予備調査の結果が得られ、一定のフレームが明らかにされたが、後者については、現在実施検討中であるため、ここでは前者についての考察結果を報告する。 予備調査は、3病院の内科系・外科系のそれぞれの病棟に勤務する病棟看護婦と在院する患者を対象とし、各自の病棟に対する期待と評価を機能・領域・社会的交流・医療行為の側面から抽出した各3項目に対するアンケートによって収録した。 その結果、両者は、病棟空間を生活機能上の側面において一致して高く位置づけていること、その一方で医療行為が行われる空間として患者の位置づけが高いのに対し、看護婦はさほどでもないこと、また病棟空間への慣れが位置づけの度合いを左右すること、現状の是非が期待に結びつくとは限らないこと、等の傾向及び調査手法上の問題が明らかになった。これらを基に、各利用者の意識上における空間の位置づけの『ズレ』を理解することが必要である。
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