研究概要 |
クラック先端の局所過程が破壊靭性に及ぼす効果を明らかにするため,本年度は,脆性温度域におけるクラック進展抵抗(F_R)の温度効果,並びにクラックと結晶欠陥との相互作用について研究を行った。得られた結果は,次のように要約される。 (1)サファイア結晶と立方晶ジルコニア系結晶を用いて,結晶欠陥の活動しない低温域のF_R値を実測した結果,いずれの結晶のF_R値も大きな負の温度依存性を示し,弾性定数の温度依性では説明できない大きな変化であることを明らかにした。この結果は,クラック先端の結合切断過程に熱活性化の寄与することを強く示唆する。 (2)転位活動の活発となる脆性ー延性温度域における転位群の生成・移動状態について計算機シミュレ-ションを行い,転位分布やF_R値の変化を追跡した。計算結果は,転位の運動抵抗に対するF_R値変化の実測結果と同相の傾向を与えたが,その変化の絶対値は実測結果と比べてかなり小さな変化に留まることが判った.この計算に基づき,各過程での転位遮蕨の程度を調べた結果,転位生成が極めて容易でクラック先端からの単純な生成過程に従っていないことが明らかとなった。 (3)クラックに対する侵入型不純物原子の相互作用の過程について計算機シミュレ-ションを行った結果,クラック先端への侵入型原子の集合に伴ってクラック進展力が増大し,破壊靭性値の低下することを示した。この検証のため,不活性なヘリウム原子をグロ-放電法によってFeーSi結晶に添加し,F_R値の変化を実測した結果,ヘリウムの添加中のF_R値はクラック進展速度の遅いとき顕著に低下し,水素脆性を起す水素添加中のF_R値に近づくことを明らかにした。
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