研究概要 |
イオン結晶において見い出した破壊靭性の特異な温度や照射の効果,並びに,易動性侵入型原子による共通の脆化現象を理解するため,クラック先端の局所過程に着目して研究を行った.NaCl等のイオン結晶の破壊靭性値は,室温付近以下において温度上昇とともに低下し,高温域では昇温によって増大する.また,γ線照射や固溶によって硬化すると室温付近の靭性値は上昇する.これら室温あるいは低温域での温度や固溶の効果は,鉄など通常の金属とは正反対である.この現象に対する大規模計算の結果は次の点を明らかにした.クラック近傍では,クラック先端から放出する遮蔽転位と内部転位源から生成する反遮蔽転位が活動し,それぞれ靭性値上昇・低下に寄与するが,それぞれの生成に対する相対的難易によって靭性変化が逆転する.NaClなどでは表面エネルギーに対する転位芯エネルギーの比が通常の金属より大きく,クラック先端から生ずる遮蔽転位の活動は高温域でないと支配的にならないため,低温域で逆傾向を示す.また,電子状態計算は,表面付近に水分子が付着すると近傍の剪断が容易となることを示し,クラックからの転位生成の容易化によってヨッフェ効果の傾向を説明できる.さらに,易動性侵入型不純物原子の局所過程についても大規模計算を行った結果,クラックとの直接的な相互作用に加え,クラックを介した不純物原子同士の相互作用によってクラック先端近傍の不純物分布が反遮蔽型の寄与をすることを示し,易動性不純物によって普遍的に脆化が起こり得ることを示唆した.これらの脆化現象は,Heなどの不活性元素を含めた幾つかの不純物元素添加によって実験的に検証した.
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