典型的な非晶性高分子の一つとして知られるアタクチックポリスチレンをこの高分子に対し最も高温でゲル化を引き起こすことが知られている二硫化炭素に溶解し、生じる物理的ゲル化の機構解明を構造的側面と熱的側面の両面から、解明することを試みた。先ず、従来の高分子溶液物性研究を、少なくとも液体窒素温度の低温領域まで拡張することを試みた。このため、パルス冷中性子源にマイカを設置した高性能中性子分光器を開発し、ゲル化の動的機構解明を試みた。温度低下に伴い、準弾性散乱ピ-クの劇的なナロ-イングが観測され、少なくとも2種類の局所運動の存在が示された。静的機造変化は、中性子小角散乱装置を用いて追跡された。温度低下に伴い、ゾルからプレゲルへと変化することがこの系の希薄溶液において、はじめて見いだされた。プレゲル変化に伴ない、高分子鎖の配位は、良溶媒中の孤立鎖から、分岐高分子の生成・成長、高架橋密度の分岐高分子(ドロップレット)形成をへて、有限クラスタ-へと形態変化することが示された。濃度が増加に伴い、クラスタ-化が妨げられた。このことから、敷居値以上の濃度で形成されるゲルでは、ドロップレットが架橋点を形成すると考えられた。またこの変化は、熱可逆的であった。架橋点の構造をさらに詳細に調べるために、広角測定が行われた。その結果、ゲル化に伴い、秩序構造が発現した。この秩序構造も熱可逆的であった。プロファイル解析の結果、最小の架橋単位のモデルが提唱された。それによると、温度低下に伴い、ポリスチレン側鎖のベンゼン核と二硫化炭素とが1対1の複合体を形成することにより、一種の活性化状態となる。ついで、活性化された側鎖同志が相互作用し、複合体を形成する。これにより鎖間に架橋が生じることになる。複合体は、「電荷移動錯体」と考えられる。上記のゲル化機構に予盾がないかさらに熱的測定による検討が行われてきた。
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