1)中性子散乱による成果: 希薄ゾル溶液の温度低下に伴い、異なる高分子鎖間に架橋が生じ、それが大きなクラスターへと成長することが示された。このことから、温度低下に伴い、物理的結合による分子間会合が生じることと、物理的結合は引力相互作用と等価であることが結論された。ゾル-ゲル転移曲線に沿っての臨界指数は、濃度と共に、3.3から2.0へと連続的に移行した。これは、物理的結合に基づく相分離とゾル-ゲル転移との競合の結果、架橋領域が柔軟であることを反映している。この柔軟な架橋領域が本系の物理ゲルを特徴づけている。低温ゲルの広角回折図形の結果は、溶媒を含んだある種の秩序構造の存在が確認された。この秩序構造は、ゾルおよび高温ゲルでは、観測されなかった。架橋点形成のエネルギーと熱エネルギーとが、ほぼ等価であることが結論された。また、部分相関の散乱挙動の結果は、温度低下に伴い、分子内架橋が生じることを示した。 2)落球法による成果: ゲル融解温度は、鋼球の重量に大きく依存することが示された。これを考慮したゾル-ゲル転移曲線は、濃度および分子量と共に増加する傾向を示すが、従来の結果より、ゾル-ゲル転移曲線が、高温側に大きく移動することが示された。また、ゲル融解エンタルピーは、分子量と共に増加するが、分子量10万を境にして、急激に増加する(即ち、ゲルの安定性が急激に増す)のが見られる。 3)DSCによる成果: ゲル化温度とゲル融解温度とのずれは、濃度増加につれ大きくなった。これは、高濃度側で、熱履歴効果が顕著になるためである。融解エンタルピーの値は小さく、濃度依存性を評価できなかった。ゲル形成エンタルピーは濃度と共に増加する傾向を示した。従来の結果との違いは、本系の物理ゲルが、弱いゲルであるために生じたものと結論された。 4)粘度測定による成果: 封官型改良ウベローデ粘度計を用いて、分子量を広く変えて、固有粘度測定を行った。その結果、低温の濃度ゼロの極限では分子内会合が顕著となり、分子内収縮が起こるのに対し、濃度増加に伴い、分子間会合が顕著となり、高分子鎖がクラスター化することが結論された。 結論として、本系の物理ゲルは、柔軟な架橋領域を持つ相分離ゲルであるといえる。
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