研究概要 |
本研究は,現在のルールに基づくエキスパートシステムを持つ,脆弱性と応用力の欠如という問題点を解決することを目指して,エキスパートシステムに応用力を持たせ,柔軟な問題解決を行なわせるための新しい知識処理技術の開発を目的として行なわれた.専門家の経験的知識は一般に浅い知識と呼ばれているが,専門家は浅い知識以外にドメインの基本原理,原則(深い知識)などに精通しており,それゆえ,専門家は未知の状況に出会った時に熟考し,原理,原則に戻ることによって,その困難な状況に対処できると考えられる.このことに注目して,経験的知識以外の,ドメインにおける深い知識を有効に問題解決に用いることができるエキスパートシステムを構築するために必要な基礎的な研究を行った.その結果,5種類の深い知識とそれを用いた浅い知識を生成する知識コンパイラの開発を行なった。 本研究課題はモデルベース推論の研究とも深い関連を持っている.モデルベース推論とは,対象の定性的なモデルを構築し,それに基づいて対象の定性的な振る舞いを推論する方法論に関する研究である.しかし,定性値に基づいているために推論に曖昧さが生じるため,実用にならないという大きな問題があった.そこで本研究では,故障診断をタスクに設定し,現実の問題(動力炉核燃料開発事業団の高速増殖炉,常陽の故障診断)を対象にして,定性推論の問題をモデル構築を含めて根本から検討し直し,常陽の主冷却系統の振る舞いを定性的に推論できる新しい定性推論方式を開発した.更に,再利用可能な知識ベース構築技術の基礎的検討として,タスクオントロジーとその知識獲得への利用と変電所の事故復旧支援システムのための知識ベースの再利用可能知識ベースに関する考察を行ない,広い意味での深い知識に関する総合的な検討を行なった。
|