研究概要 |
本年度は、消滅を目指した反応核種として注目されるものの中から、まず、代表的なアクチナイド元素であるNpー237を取り上げ、その核分裂反応断面積を数eVから10keV領域において測定した。本研究の方法、及び、得られた成果をまとめると: 1.Npー237試料に化学処理を施し、これを溶液化して、厚さ0.2mmのステンレス製バッキングの上に直径約25mmの薄膜(〜100μg)として電着し、焼結した。Npー237のα線スぺクトル測定を表面障壁型シリコン検出器により測定した結果、試料中の不純物としては、僅かに0.5ppm以下のNpー238が観測されたのみである。この電着手法を濃縮ウラン(Uー235:99.4%)の薄膜作成にも適用し、同様に電着膜をつくって、α線スペクトルの測定を実施した。その結果、得られたスペクトルには、Uー235に対して半減期の短いUー234(約2x10^5年)のα線ピ-クが観測されたが、両者はα線エネルギ-の違いから良く分離できた。 2.上で得られたNpー237とUー235の電着膜を背中合わせとし、これをアルゴン97%、窒素3%を含む1気圧の混合ガスと共に、直径48mm、長さ40mmのケ-スに封入して核分裂計数管とした。これを、最近、京大原子炉実験所に付設され、電子線型加速器と組み合わせて使用できるようになった鉛減中性子スペクトロメ-タ(KULS)のビスマス実験孔に挿入し、Npー237(n,f)反応断面積の測定を行った。本スペクトロメ-タは、加速器にて発生したパルス状高速性子の減速特性が減速時間と良く対応する特徴を有しており、エネルギ-分解能としては、約40%前後と劣るものの、中性子強度が通常の飛行時間に比べて格段に高くなる(数1000倍以上)利点がある。 3.本実験に依って得られたNpー237(n,f)反応断面積の測定結果を下図に示す。これでは、日本で作成された評価デ-タ(JENDLー3)並びに米国の評価デ-タ(ENDF/BーVI)について、鉛減速スペクトロメ-タでのエネルギ-分解能の広がりを考慮した結果と本実験値を比べているが、何れの評価値も大きく下回っている。これは、何れの評価デ-タにおいても全エネルギ-領域にわたり低い側の実測デ-タを中心にデ-タ評価が行われたためで、本実験値は評価の対象とされなかった高目の実験デ-タ群に一致する傾向を示した。 4.今後は、本実験結果について、再測定を含めた実験的評価を行うと共に、従来の高目、低目のNpー237(n,f)反応断面積のデ-タ群を含めた比較検討を行う。また、Npー237の中性子捕獲反応断面積は、低エネルギ-領域において比較的大きいとされるので、Npー237の核変換による消滅の点から注目して、これの測定実験を行う予定である。
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