膜融合活性ペプチドについてリン脂質多層膜内での配向を、FTIRを用いた減衰全反射スペクトルの解析から検討した。初年度の予備的実験ではペプチドα-ヘリックスは膜内でランダムに配向しているがごとき結果が得られたが、詳細な解析の結果、これは誤りで、ペプチドα-ヘリックスは膜平面に対し約20度傾いて、即ち膜平面に平行に近い配向状態にあることが判った。これは膜融合活性を持たない中性pHにおいても変わらなかった。活性ペプチドのN-末端をアセチル化などで修飾すると膜融合活性が失われるが、この不活性ペプチドでも膜との相互作用状態(膜との結合の強さ、とっている二次構造-α-ヘリックス)は元の活性ペプチドと変わらず、α-ヘリックスとしての膜内配向も全く変わりなかった。このことは何らかの意味でN-末端残基が活性発現に極めて重要な意味を持っていることを示している。活性ペプチドが膜平面にほぼ平行に配向していることから、膜融合の誘起は、ペプチドと相手の膜もしくは相手の膜内にあるペプチドとの間の割合い静的な相互作用で起こっていることが類推される。 本研究で用いられたペプチドのトリプトファン残基の蛍光の測定から、膜が存在するとき、トリプトファン残基は膜の内部に埋もれた状態にあることが推定される。FTIRの結果と合わせると、ペプチドα-ヘリックスはトリプトファン残基のある側面を内側にして膜面と平行に(中性pHなど解離基が解離した条件下では膜面に浮いて)存在していると結論された。 ペプチドが膜に対しむしろ水平に配向していることからチャネルの形成は直接には結びつかないと思われるが、平面膜を用いる予備的な実験ではチャネルによると思われるイオンの間欠的な輸送が認められている。
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