研究概要 |
選択性の高い金属触媒を分子設計するためには、よりよく規定された金属活性中心を固体表面に精密合成するとともに、反応場である金属配位圏の周辺構造、反応空間を規制することが重要である。金属クラスター化合物は一定の組成を持つ金属原子集団の分子であるので固体表面に担持したときによりよく規定された活性中心を与える前駆体として有望である。本研究はゼオライトや粘土鉱物などの無機細孔内をミクロな試験管とみなして細孔内の特有な反応環境を利用して好ましい有機金属錯体を合成するShip-in-Bottle法を開拓し細孔内に高度な分子認識性をもつ反応場を分子原子レベルで精密設計することを目的して進められた。具体的には分子形状選択性を有するゼオライト細孔内に各種の金属カルボニルクラスターを内部合成し、それを触媒前駆体に用いて高度に構造規定された分子性金属クラスター及び酸化物クラスターを精密合成を行った。これにより、CO水素反応、NO+CO反応、オレフィンメタセシス反応、メタンの活性化などの触媒反応に対する高選択的な固体触媒の構造解析や触媒反応の構造制御に関する知見を集積することができた。本研究実験期間中にゼオライト細孔内の疑似的な“Solid-Solvent"の鋳型反応場を利用して、Rh_6(CO)_<16>,Ir_6(CO)_<16>,[Pt_3(CO)_6]^<2->_n(n=3,4)などの新しい金属カルボニルクラスターの“シップインボトル合成"に成功し、その細孔内での存在状態、金属骨格構造に関してEXAFS,FT-IRなどの分光的手段を用いて詳細な情報を得ることができた。[Pt_3(CO)_6]^<2->_n/NAYはNO+CO反応や水性ガスシフト反応に活性であり、さらに、光照射により、水性ガスシフト反応は顕著な増大が認められ、細孔内の金属クラスターに対する新規な光増加効果をみいだした。これらの反応はPt_3(CO)_6ユニットの解離再結合を伴うダイナミックなRedox機構で進行していることを明らかにした。さらに、グラファイトに担持した金属クラスターの構造をSTMを用いて観察した。これらの研究は、細孔内の金属カルボニルクラスターの合成と構造制御に関する興味ある知見が得られたばかりでなく、ミクロポアー内の金属クラスターの精密設計への基盤的指針を提供すると共に、不均一系触媒への反応制御のための分子的アプローチのための開拓的成果が得られた。
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