研究概要 |
本研究の目的は、二次元電子構造を持つ有機超伝導体の開発を中心に、有機伝導体における電子構造の次元性の制御に関する分子設計を検討する点にある。 本年度は、まず、BEDT-TSeFとTMTSFの各々半分のユニットからなる非対称ドナーDMET-TSeFのカチオンラジカル塩の、電気伝導、結晶構造を詳細に検討した。その結果、新しい常圧超伝導体(AuI_2塩,Tc=0.6K)と磁場誘起状態(AuI_2,AuCl_2塩)を見出した。この系は、基本的には準一次元系と考えられる。今回発見された磁場誘起状態はTMTSF系以外の系で見つかった最初の例であり、磁場誘起状態が非常に一般的で基礎的な現象であることを実験的に示したものといえる。次に、前年度までの結果に基づき、ETITという略称で表わされる含セレン非対称有機ドナー系を設計合成した。このドナーは二次元的分子配列をとる傾向が強く、かつ良質な単結晶を得る上で重要な要素である溶解度を向上させるように、カルコゲン原子の配置やリングの大きさを設計したものである。この系では、7種類のカチオンラジカル塩を得ており、その全てが低温まで金属ー絶縁体転移を示さず、極低温まで安定な金属状態を保つことを見出した。また、電気伝導の異方性は二次元的であり、当初の目的通り二次元的な系を構築することができた。
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