1.本研究は、新しいレーザー発振の媒体の開発や新規な反応性を有する活性種の創出のための基礎研究として低温の希ガス結晶等にドープされた簡単な多原子分子-O_2やN_2分子-を解離極限近傍に光励起し、後続の光物理過程を研究することを目的としている。光励起により解離極限以上に励起された分子は気相においては単に解離するのみであるが、結晶中にトラップされていると再結合しその一部は発光性の結合状態に遷移する。この過程を吸収法や発光の時間分解、スペクトル分解によって追跡し、結晶等の周囲環境が緩和に果たす役割、および解離に対する一種のケージ効果の発現の仕方を明らかにする。 2.本年度は以下の研究を推進した。 (1)前年度に準備した希ガス結晶作成装置を用い、O_2をドープしたArやN_2結晶に対して193や248nmのレーザー光励起を行い、その結果生じる発光のスペクトルを詳細に検討した。 (2)O_2の系では前年度に発見した高い振動状態にあるc-a発光に加えて、条件によっては、より低い振動状態からの発光も見られることを明らかにした。 (3)N_2の結晶においては、N原子の励起状態からの発光を見いだしこの発光の種々の条件依存性を検討した。すなわち、この発光は照射を続けることによって増大するが、その増大の速度は励起光の3次に依存する。また照射を中断した後も、発光の前駆物質と想定されるものが、かなりの長寿命で潜在していることなどである。 3.以上のような実験結果からArやN_2結晶中で1光子、2光子過程などによってO_2やN_2の励起分子種や原子種が生成できること、さらにこれらの緩和過程は条件によってはかなり遅く、その結果高エネルギー化学種が保存できることを結論した。
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