本研究では低温の希ガスや小分子の結晶にドープされた簡単な多原子分子を1光子あるいは多光子過程によって解離極限以上、あるいは近傍に光励起し、後続の光物理過程を研究した。光励起により解離極限以上に励起された分子は気相においては単に解離するのみであるが、結晶中にトラップされていると再結合しその一部は発光性の結合状態に遷移する。この過程を発光の時間分解、スペクトル分解などによって追跡することにより、結晶相が緩和に果たす役割、特に解離に対する一種のケージ効果の発現の仕方を明らかにすることを目的とした。得られた成果は以下の通りである。 1.希ガス結晶作成装置を用いO_2をドープしたArやN_2結晶に対して193や248nmのレーザー光励起を行い、その結果生じる発光のスペクトルを詳細に検討することができた。 2.Ar結晶中のO_2の系では高い振動状態にあるc-a発光と、条件によっては、より低い振動状態からの発光も見られることを明らかにした。 3.N_2結晶中のO_2の系では、A′-X発光とc-a発光が観測され温度の上昇に伴い、c-a発光が相対的に増加すること、時間的な関係の解析によって、A′状態からc状態へ項間交差が進行すること等を明らかにした。 4.N_2の結晶においては、N原子の励起状態からの発光を見いだしこの発光の前駆物質は基底状態のN原子であり、励起N_2分子からのエネルギー移動によってより高いN(^2D)状態に至って発光していることを速度論的に明らかにした。 5.以上のような実験結果からArやN_2結晶中で1光子、2光子過程などによってO_2やN_2の励起分子種や原子種が生成できること、さらにこれらの緩和過程は条件によってはかなり遅く、その結果高エネルギー化学種が保存できることを結論した。
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