本研究では、外部信号により「in situ(その場)」で、固体表面の触媒作用の制御が可能な機構を有する固体触媒を得ることを目的とした。36°回転yカットLiTaO_3単結晶に発生できるshear horizontal(SH)型の弾性表面波を用いた研究を行った。この結晶表面に、発信側と受信側にクシ型(IDT)電極を電極指間の周期幅を200μmにして取り付けた。周波数の計算値20.5MHzに対し、周波数の実測値は20.95MHzとなり計算値に良い一致を与え、目的に合う弾性表面波素子の設計を行うことが出来た。SH波型では、漏れ弾性表面波であるため表面波素子の電極部分、伝搬部、裏面等の各箇所にポリイミドの薄膜を張り付け、結晶各部における弾性表面波の伝搬割合を求め、この表面波の伝搬特性を明らかにした。触媒体として、NiO、TiO_2あるいはPdを10nmの厚さで発振および受信電極間に蒸着して触媒とした。エタノ-ルの酸化反応に対する弾性表面波の効果を調べ、NiOにおいて、弾性表面波の印加により触媒活性が著しく増加することを、初めて見出した。弾性表面波の伝搬が生じない周波数域の高周波を印加しても活性の増加は起こらないこと、弾性表面波印加中に表面の温度は一定に保たれたことから、この活性増加は、電圧や熱の効果によるものではなく、弾性表面波伝搬により誘起された新しい表面現象であることを示すことが出来た。触媒活性の印加電力依存性から、活性は電力のほぼ2乗に比例して増加し、2.7W印加で活性は約20倍にも増加できることを示した。弾性表面波を印加しない場合と印加した場合について、反応の温度依存性を比較し、印加により反応の活性化エネルギ-が50%以下に減少することを見出し、弾性表面波による活性増加が熱的効果ではないとする考えに支持を与える結果を得た。以上の本年度の結果から、弾性表面波を用いることによって、固体表面の触媒作用の人工制御が可能となる見通しを立てることができた。
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