溶液内での光化学過程について分子軌道法および分子動力学法を用いて研究を行った。今年度は特に、(1)アントラセンとジメチルアニリン(DMA)の光誘起電子移動反応と(2)Norrish typeIIジラジカル反応中間体の3重項ー1重項遷移を取扱った。光誘起電子移動反応は、有機光化学において最も基本的で重要な反応の一つであり、これまで多くの研究がなされてきた。しかし、理論的研究ではほとんどが現象論的モデルに立脚するものであった。本研究では、分子軌道法により得られた電子分布を用いて、溶質間、溶質、溶媒間のポテンシャル関数を求め、それを用いて分子動力学計算をおこなうことにより、光誘起電子移動反応についての実体的な分子論モデルを確立することを目指した。具体的には、アントラセンとDMAおよび500個のアセトニトリル分子からなる系を取扱った。結果は、(a)溶媒の再配置エネルギ-の値が連続体近似によるMarcus 理論と約1ev異なり、従来の実験結果の解釈に再検討を加える必要があること、(b)溶媒座標に沿った運動に対して線型応答理論が良く成り立つことなどが分かった。カルボニル化合物の代表的な光化学反応であるNorrish typeII反応は多くの実験的研究が行われているにもかかわらず、その動力学についての理論的研究はほとんど行われていない。ここでは、分子軌道法を用いてマブタナ-ル光励起により生成されるジラジカルのポテンシャル面とスピン軌道相互作用行列要素を計算し、分子動力学法によりジラジカルの各コンフォ-メ-ションにおける3重項・1重項遷移速度の計算を行った。溶媒としてはメタ-ルと非極性溶媒を表わすLennardーJones分子を用いた。
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